「大避難」について 広域避難編

いつもブログをご覧いただき、ありがとうございます。
前回は自然災害のうち雨による災害、特にスーパー台風が上陸したらどうなるかのシミュレーションを紹介しました。今回はこのような場合の避難について考えてみたいと思います。

1.避難情報
台風や大雨などは、事前にある程度の規模や進路が予測できます。それにより「大雨警報」や「洪水警報」「土砂災害警戒情報」といった気象情報が発表され、それに基づいて自治体からの避難の呼びかけが行われます。
避難については緊急性が高いものから「避難指示」「避難勧告」「避難準備情報」の3種類があります。しかしその内容がわかりづらく、特に「避難準備情報」は避難するための準備を開始するという理解をしている方も多く、昨年の台風10号ではグループホームに入居していた高齢者9人が犠牲になってしまいました。「避難準備情報」は高齢者や自力では避難出来ない方達が避難を開始するという意味ですが、施設側がその意味を誤解していたことにより避難が間に合いませんでした。
この台風10号の被害を受けて内閣府は2016年12月26日、自治体が発令する「避難準備情報」の名称を「避難準備・高齢者等避難開始」に変更し、全国の自治体に新名称を使うように通知しました。また「避難指示」についても危険が差し迫っている状況をより強調するために「避難指示(緊急)」という表記に改めました。しかしいくら名称を変えたとしても、実際に行動に移すのは一人一人の意識の持ち方が重要になってきます。
内閣府 避難準備情報の名称の変更について
 
 http://www.bousai.go.jp/oukyu/hinankankoku/hinanjumbijoho/index.html

2.避難開始の目安
気象庁からの情報に基づき、各自治体が避難の呼びかけを行います。自治体ごとに避難計画を策定しているので、皆さんのお住まいの地域の自治体HPを確認してみて下さい。
しかし、2015年の茨城県常総市の鬼怒川決壊だけではなく、広島市の土砂災害や伊豆大島の土砂災害など、大きな被害が発生している水害では避難勧告や指示が間に合っていないという状況が起きています。2014年の広島市の土砂災害の後に内閣府が行った自治体へのアンケート調査では、土砂災害が発生した際、事前に避難勧告や避難指示を出していたのは全体の6割弱の自治体で、多くは住民からの問い合わせの対応で手一杯だったり、急激に激しさを増す雨に対して準備が追い付いていなかったりという状況でした。特に夜間の場合、宿直の職員しかいないため更に手が足りません。伊豆大島の災害では、事前に気象庁からの連絡が入っていたにも関わらず、職員が帰宅してしまいました。
避難の呼びかけが遅れる自治体が相次いだことを受け、内閣府は2014年と15年に、自治体が避難勧告や指示を出す際の目安や心構えを定めた「避難勧告等の判断・伝達マニュアル作成ガイドライン」を改訂しました。特に「(雨量による)予想で土砂災害警戒情報の基準に達した場合には避難勧告を発令し、実況で土砂災害警戒情報の基準に達した場合には避難指示を発令する」という、基準に達したら躊躇せず、空振りを恐れずに速やかに避難勧告・指示を出すようにという流れになりました。そのため最近では自治体の避難の呼びかけが速やかに、かつ広範囲に出るようになっています。
2014年7月~10月までの間で、大雨などの気象災害に対して出された避難勧告・指示は、対象となる人数はのべ1073万9500人にも上ります。同じ自治体で避難勧告、その後に指示が出されたものも含まれますが、国民の11人に1人に対して発令された形になります。避難する私達も、「なんだ、何事もなかったじゃないか」と行政に文句を言うのではなく、「何事もなくて良かった」という意識を持ちたいと思います。

3.避難開始
実際に避難開始になると、指定されている避難場所へ移動します。しかし実際にどこへ逃げればいいでしょうか?
海抜ゼロメートル地帯では避難場所の多くが水没の危険性があり、そこへ避難することは出来ません。早目に避難していても、台風の接近に伴い雨量が多くなり、河川水量の増加、越流などにより別の場所への再度の避難になってしまいます。そうなるとより風雨が激しくなっており、その中での移動は危険性も高くなります。
それぞれの自治体にはきちんとした防災計画があり、避難勧告や指示を出す基準が決められています。その決定を行うのが各自治体の首長になりますが、場合によっては自治体ごとでの発令がばらばらになることも考えられます。また近年は堤防も整備されて災害も減っているため、地域住民も水害に対しては実感がなく、その備えが殆ど行われていない地域もあります。避難訓練も地震を想定した訓練ばかりです。水害の経験がないため「荒川が切れても大丈夫」という意識を持っている住民もいます。
高潮が流れ込んだ地域は、台風が過ぎ去っても水に浸かったままです。前回のスーパー台風のシミュレーションを例に挙げると、命の危険にさらされている人は20万人もおり、さらに区内の高い場所や建物などに避難した人の数は137万人にものぼります。この方々を区外に移すための救出活動や、救出されるまでの間は物資を渡す必要があります。電気・ガス・水道というライフラインが途絶している可能性も高い中、極めて厳しい生活環境を強いられます。またシミュレーションでは、避難勧告の段階で住民が一斉に避難したらどうなるかというケースも算定しました。その結果は、区外に脱出できる住民はバラバラに避難するよりも更に減り、44万3000人が命の危険にさらされるという更に悪い結果になりました。かつて国土交通省が試算した結果によると、排水のためのポンプを各地から集めて対応しても、排水には2週間以上かかるとの結果が出ました。病気の人への対応などもかなりの困難が伴います。そこで必要なのが「広域避難」です。

4.広域避難への取り組み
2015年の鬼怒川決壊の水害を受けて、国土交通省は国が管理する109水系のおよそ400の河川について、最大規模の洪水を考慮した浸水想定を開始しました。またこのシミュレーション結果を受けて、足立区・江戸川区・江東区・葛飾区・墨田区の江東5区が「大規模水害対策協議会」を発足させました。これは大規模水害の恐れがある場合は、共同検討における判断に基づいて区民に対して大規模水害の可能性を伝えるとともに、全ての人を対象に自主的な広域避難の実施を呼びかけることで、早い段階で区民の主体的な避難行動を促します。またさらなる広域避難の実効性を高める為に、大規模水害が発生する概ね一日前に「広域避難勧告」を発表することを目指して、江東5区が連携して広域避難に関する具体化を図っていくものです。
気象災害は「リードタイム」、すなわち雨や風が強くなってから災害が発生するまでに時間があり、避難勧告のタイミングが難しい場合があります。しかし逆に考えれば、地震と異なり突然発生する災害ではないので、避難準備の時間を確保することができます。災害が起きる前から逆算して対策をとるという考え方を「タイムライン」といいます。台風の場合、発生してから上陸するまでの数日間を使うことができ、この間に各自のタイムラインに沿って行動します。しかし行政は、①避難勧告のタイミングをどうするか、②避難先と手段をどうするか、③現実的な対応策を打ちだせるか、という課題に直面しています。
江東5区が具体的に想定した避難の流れは
【災害発生3日前】
5区の職員が集まり検討を開始し、区民に大規模水害の発生や広域避難呼びかける可能性があることを伝える。そしてすべての区民を対象に「自主広域避難の呼びかけ」を行う。
【災害発生1日前】
5区の区長が合同で「広域避難勧告」を発表する。そして公共交通機関を利用した避難を呼びかける。
【災害発生12時間前】
「避難準備情報」を発表。広域避難が難しい要支援者に、ビルの上などに設けた避難所への避難を呼びかける。
【災害発生6時間前】
台風による暴風雨で公共交通機関が止まった場合は広域避難を止め、「避難勧告」を発表して区内にある高層建物の上の階への垂直避難をするように求める。
【災害発生数時間前】
「避難指示」を発表し、速やかに命を守るための行動を求める。
具体的に区外のどこへ避難するのかなど、実効性のある計画になるのはこれからですが、確かな一歩は踏み出しました。
葛飾区 江東5区大規模災害対策協議会の検討結果
  
 http://www.city.katsushika.lg.jp/kurashi/1000063/1004031/1012226.html
江東区 江東5区大規模水害避難等対応方針
 http://www.city.koto.lg.jp/057101/bosai/bosai-top/topics/topics_0072.html
江戸川区 江東5区大規模災害対策協議会~犠牲者ゼロの実現に向けて~
 https://www.city.edogawa.tokyo.jp/bousai/koto5_daikibo_suigai.html
荒川に面する埼玉県戸田市も、上流側・下流側のどちらで決壊が起きても全市が水に浸かる問題を抱えています。浸水の高さは最大4mにもなり、広域避難が必要になってきます。そこで戸田市に隣接するさいたま市浦和区や南区の高台にある小・中学校に戸田市民も避難できる取り決めがなされました。住民側も具体的な避難場所がわかることにより、安心感を持つことが出来ます。このように少しずつですが、各地で広域避難計画が具体化しつつあります。
戸田市 水害犠牲者ゼロのまちづくり
  
 http://dsel.ce.gunma-u.ac.jp/toda_ws/cont-30.html

梅雨入りした現在、東日本ではまだあまり雨量はありませんが、いつ大雨になり、避難が必要になるかわかりません。筆者が住んでいる地域では雨はまだ少ないですが、既に2回も竜巻注意報が発令されました。しかも一度は朝の4時でした。幸いにも竜巻の発生はありませんでしたが、「また空振りだろう」と捉えるのではなく、発令されたら注意力を高めにしておきたいと思います。
皆さんのお住まいの地域や仕事先、日頃からよく行く地域など、周囲の状況の確認を今一度行って、イザという時に備えていただきたいと思います。


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