地震予知前提の見直しについて

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昨年9月に、南海トラフ巨大地震の防災対策を議論してきた政府の作業部会は、東海地震の直前予知を前提にした防災対応を見直し、広範囲で防災計画を定めるように求める最終報告書をまとめました。これは直前予知は「不可能」ということです。

今回はこのことについて書きたいと思います。

 

1.これまでの経緯

東海地震は1969年に東京大学教授(当時)の茂木清夫氏が遠州灘での大地震発生の可能性を指摘したのが最初で、1976年に東京大学助手(当時)の石橋克彦氏が「駿河湾地震説」を提唱し、研究が始まりました。1854年の安政東海地震では、紀伊半島潮岬沖から駿河湾までのプレートがずれたのに、1944年の東南海地震の際は紀伊半島から浜名湖まででプレートのずれが止まってしまい、浜名湖から東側の部分のプレートがずれ残りました。このため、その部分だけ歪みが蓄積したままになっていると考えられたのです。

東海地震の予知の可能性の根拠は、1944年の東南海地震直前に行われた測量中に発生した通常では考えられない誤差で、これをプレスリップ(前兆すべり)と言います。プレスリップは、プレート境界の強く固着している領域の震源域の一部が地震の発生前に剥がれ、ゆっくりとすべり動き始めるとされる現象です。水準点の掛川市を基準に御前崎では年間45mmの沈降を続けていますが、プレスリップが発生すると沈降速度が減少して隆起に転じる可能性があり、それを歪計によって捉えようというものです。

気象庁により掛川から御前崎を中心に東海地域各所に体積歪計が設置され、24時間体制の監視が行われており、もし異常な現象が捉えられた場合には、それが大規模な地震に結びつく前兆現象と関連するかどうかを緊急に判断するため、地震学研究者6名からなる地震防災対策強化地域判定会が開催され、データの検討が行われます。その結果、もうすぐ東海地震が起きそうだと気象庁長官が判断した場合、ただちにその旨を内閣総理大臣に「地震予知情報」として報告します。そして東海地震は予知が可能ということで1978年に制定された「大規模地震対策特別措置法(大震法)」に基づき、内閣総理大臣が「警戒宣言」を発令します。

警戒宣言の対象地域は、①地震の揺れによる被害は震度6弱以上の地域 ②地震発生後20分以内に高い津波(沿岸部で3m以上、地上で2m以上)が来襲する地域が、地震防災対策強化地域に指定されています。

警戒宣言が発せられると、これらの地域では全ての社会活動や生産活動が停止して、一日で莫大な損失額が発生します。事前に様々な活動を停止することで人的被害や経済被害を軽減できるという試算もありますが、地震はいつ発生するかわかりません。そのまま発生しない可能性もあります。その場合、休業に伴う損失額はどうするのかも解決されておらず、また1944年の測量値が本当に正しかったのかという疑問を持たれ続けたまま今日に至りました。幸いにもこの40年間、総理大臣が「警戒宣言」を発するのは91日の防災訓練の日のみで、実際に地震の発生はありませんでした。

 

2.なぜ見直すか

東海地震だけではなく、南海・東南海・東海を含めた「南海トラフ地震」という考え方になったのは、2011311日に発生した東日本大震災です。この時は岩手県から茨城県までの南北500キロが震源域になり、広範囲で地震が連動するのを目の当たりにしました。

東海地震が特別視されてきたのは、①震源が陸域に近く、地下の異常を捉えやすい ②199446年の南海トラフの地震の際に断層が動かず、ひずみがたまっている、などと考えられてきたためです。

しかし、この40年間で観測網が整備され研究が進むと、「地震予知は出来ない」との見方が逆に強まりました。予知が出来なければ警戒宣言は出せず、大震法の前提自体が崩れます。更に前回の南海地震から70年以上が経過し、東海地震単独ではなく、南海トラフ全域で起こる巨大地震を警戒する必要が出て来ました。これまで東海地震が単独で発生したことはなく、また「駿河湾地震説」を提唱した石橋克彦氏も東海地震単独では発生しないと述べています。こうした事情を背景に、大震法見直しや広域での防災対策を求める声が高まり、20169月より新たな防災体制の議論が始まりました。

 

3.見直しの内容

報告書では、大震法に基づく計画に代わり新たに南海トラフ沿いの広域で、事前避難などを含めた防災計画を策定することを求めました。

まず避難を開始する前提として「予兆」を捉えた場合ではなく、南海トラフのどこかで実際に地震が発生した場合を想定しました。南海トラフの地震は、これまで駿河湾から四国沖にかけて複数の震源が同時に、もしくは32時間後や2年後などの時間差で発生しています。このため、南海トラフの東側で大地震が起きてからの3日間程度は、「大規模地震の発生が特段に高い」として、被害がなかった西側沿岸部の住民も避難することを提案しました。4日目以降や、巨大地震よりも一回り小さい「前震」らしい地震が発生した場合は、高齢者や自力避難が困難な人は1週間ほど安全な場所に避難するとしました。

そして南海トラフの地震について、「臨時」と「定例」の2種類の情報が新たに発表されることになりました。臨時情報は、①南海トラフ沿いでM7以上の地震が発生するなどして、大規模地震と関連するか調査を開始・継続 ②大規模地震の可能性が高まった ③大規模地震の可能性が高くなくなった、場合にそれぞれ発信します。

調査は、新設する気象庁長官の私的諮問機関「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」の助言に基づいて気象庁が実施します。大地震の可能性が高まった場合は関係省庁災害警戒会議を開き、避難経路や備蓄の確認など、地震への備えを国民に呼びかけます。同検討会は月に一度、定例会合を開き、異常がない場合は定例情報を出します。

この定例会は昨年1127日に第1回目の検討会が開かれ、「現在のところ、平常時に比べて発生の可能性が高まったと考えられる特段の変化は観測されていない」との見解が発表されました。

気象庁 南海トラフ地震に関する情報

 

http://www.data.jma.go.jp/svd/eew/data/nteq/index.html

 

4.残された課題

内閣府は今後、静岡県と高知県、中部経済界を「モデル地区」に選び、具体的な防災対応を議論していく考えを示しました。そしてモデル地区での検討内容を踏まえ、自治体や企業が防災計画を作る際の目安となる運用指針を策定する方針です。

しかし避難計画を作成するにも、多くの課題が残されています。例えば、南海トラフの東側で大地震が起こった場合、西側の住民はいつまで避難生活を続ければいいのか。東側に続いてすぐ西側で地震が発生する場合もあれば、何年も地震が起こらないこともあります。そのような状況で、学校や鉄道、企業の経済活動をどこまで制限すればよいのか。あらかじめ決めるのも困難ですが、具体的な対策を示さないまま地震の発生確率が高まっていると発表しても、かえって社会の混乱を招く恐れがあります。

豪雨や火山噴火などの自然災害が発生する恐れのある場合、災害対策基本法に基づいて市町村長が住民に避難を指示します。また気象庁が出す大雨警報や噴火警報は気象業務法で災害の「警告」と位置付けられており、避難に直結する情報として運用されています。

一方、南海トラフ地震の臨時情報は、気象業務法の「観測成果」に過ぎず、市町村長が避難を勧告する法的根拠としては弱く、避難を勧告するかどうかは自治体による判断次第となります。

しかし専門家は、「地震に限らず、行政が適切なタイミングで避難勧告などを出せるとは限らない」と指摘しています。実際に避難勧告が遅れたり、勧告が出されなかった結果、大きな被害に繋がった災害は数々あります。行政からの避難勧告を待つのではなく、私達自身が「避難指示が出なければ逃げない」という発想から脱却して、早目の避難を心掛ける必要があります。

 

南海トラフ地震が発生しても、直接的な影響を受けない地域もあります。しかしその後の物流の停止など、日本全国に何らかの影響を及ぼします。自分の地域は関係ないと考えるのではなく、日頃から起こり得る災害を考え、防災意識を高めておくことが、自分や家族の命を守ることに繋がります。東日本大震災からもうすぐ7年を迎えます。改めてご自身の備えを確認されてはいかがでしょうか。


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