火山噴火に遭遇したら
- 2019/06/20
- 23:14
いつもブログをご覧いただき、ありがとうございます。
5月19日に箱根山の火山噴火レベが2(火口周辺規制)に引き上げられて、約1ヶ月が経過しました。活動が更に激しくなるのか、それとも落ち着いていくのか、現在のところ今後の見通しがたっていません。
箱根山を始めとして日本中の火山がある場所は、国立公園に指定されていたり、豊富な温泉が湧き出る観光地になっています。そこを訪問する観光客の殆どが、火山の麓へ行くという意識は持っていません。山頂近くまでロープウェイが通っている山もあり、気軽に観光が出来ます。登山を目的とする人とは異なり、このような観光客は何の装備も持っていません。
今回は、そのような観光地に滞在している時に火山噴火に遭遇したら、ということについて考えてみたいと思います。
1.火山噴火にそなえる
(1) 噴火警戒レベル
日本にある110の活火山のうち、火山噴火予知連絡会によって「火山防災のために監視・観測体制の充実等が必要な火山」として選定された50火山が、気象庁により24時間体制で監視・観測されています。そのうち、45火山(令和元年5月現在)で噴火警戒レベルが運用されています。
噴火警戒レベルは、火山活動の状況に応じて警戒が必要な範囲と、防災機関や周辺住民が
とるべき対応を、5段階に区分して発表しています。
レベル1:活火山であることに留意
火山活動は静穏。活動の状態によっては、火口内で火山灰の噴出等が見られる
レベル2:火口周辺警報
火口周辺に影響を及ぼす噴火が発生、あるいは発生すると予想される
レベル3:入山規制
居住地域の近くまで重大な影響を及ぼす噴火が発生、あるいは発生すると予想される
レベル4:避難準備
居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が発生すると予想される
レベル5:避難
居住地域に重大な被害を及ぼす噴火が発生、あるいは切迫している状態にある.。
以前はレベル1は「平常」となっていましたが、この「平常」という言葉は安全であるとの誤解を招くことから、2014年9月の御嶽山噴火を受けて現在の「活火山であることに留意」に改められました。
(2) 噴火速報
2015年8月から新たに導入されたもので、50の常時観測火山で噴火が起きた場合に、登山者や周辺住民にすみやかに発表し、命を守るための行動がとれるようにするものです。速報は、気象庁のホームページやテレビ、ラジオ、携帯端末などに配信されます。山中には携帯電話が通じない場所も少なくないため、自治体の防災無線で放送も行います。火口が見えない場所にいる登山者や観光客らに避難を促し、噴石や火砕流などに襲われる危険を減らすのが狙いです。
なお噴火速報は、普段から噴火している火山に、普段と同じ規模の噴火が発生した場合や、噴火の規模が小さく噴火が発生した事実を確認できない場合は発表されません。
◆気象庁 噴火速報を提供する事業者
https://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/funkasokuho/funkasokuho_toha.html
2.火山噴火がもたらす事象
火山噴火が発生すると、人命にかかわる数々の事象が発生します。以下にそれらを紹介します。
(1) 噴石と火山弾
爆発的な噴火によって、小石や大きな岩石が空から降ってきますが、これを噴石といいます。大きな噴石は風の影響を受けずに四方に飛び散ります。建物の上に落下したら屋根を突き破るほどの破壊力があり、人に当たって死傷した例もあります。
火山弾は、噴出したマグマが流動性をもったまま、空中を弾丸のように飛んでくるものです。かなりの高温の状態で飛んでくるので、当たったらひとたまりもありません。
2014年の御嶽山噴火の犠牲者は、この噴石や火山弾が当たり命を落としました。これらから身を守るには、遠くへ逃げるか頑丈な建物に逃げ込むしかありません。
◆防仁学 阿蘇山噴火!「噴石」の脅威に備えるには?
https://bohjingaku.com/funseki/
(2) 火砕流
火砕流は、マグマの破片や空気、水蒸気、火山ガス、岩石のかけら、火山灰などが一体となって流れてくる現象です。火砕流は500℃を超す、モクモクとした煙のようなものが、地面を這うようにして時速100kmを上回る猛烈な勢いで流れ下っていきます。もし火砕流に巻き込まれたら、そこから逃げ出すことは全く不可能です。そしてこの高温高速の煙の流れは、通過した地域を全て焼失させ壊滅させてしまいます。1991年の雲仙普賢岳で多くの犠牲者が出た原因は、この火砕流でした。
◆NHKアーカイブス 雲仙普賢岳火砕流
https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009030241_00000
(3) 溶岩流
火口から出た溶岩が、液体のまま斜面を下って流れていくのが溶岩流です。そのスピードは、マグマの粘り気や火山の地形などによって異なりますが、それほど速くはなく、走って逃げることは出来ます。溶岩流はやがて冷えて固まり流れを止めるので、それほど広範囲に流れることはありません。けれども溶岩流は1000℃もの高温で流れるため、溶岩流の進路にある森林や家屋、農地などをことごとく焼き尽くし、溶岩の下に埋もれさせてしまいます。
また溶岩流は山頂だけではなく、山体の地質が脆い線に沿って出来た数珠つなぎの火口や、一連の「割れ目噴火」からも噴出します。日本では伊豆大島や三宅島などで割れ目噴火が発生し、溶岩流が流下しました。
◆ハワイ・キラウエア火山噴火
https://www.youtube.com/watch?v=GjWTR3ZZotc
(4) 火山ガス
火山の噴火による被害で最も長期的な影響を及ぼすのが火山ガスです。人体に多大な悪影響を及ぼすため、ガスが低濃度になるまで近づくことは不可能で、過去には50年以上も立ち入ることが出来なかった事例もありました。
火山ガスの主成分は水蒸気が95~99.5%を占め、この他に二酸化硫黄、硫化水素、塩素、フッ素、水素、二酸化炭素、一酸化炭素などを含みます。活動している火山地域は日常的に噴気と呼ばれる火山ガスを排出しています。箱根の大涌谷など「硫黄臭」があるガスは危険を察知しやすいですが、二酸化炭素などの無色無臭の気体は気付くのが困難で、登山中の死亡事故も発生しています。
平成12年(2000年)から活動を始めた三宅島では、多量の火山ガスが放出され、それが集落などの居城地域に流下し続けました。そのため三宅島の住民は噴火が一段落しても、4年半におよぶ長期の避難生活を強いられました。
◆火山ガスと防災 日本火山学会第9回公開講座
http://www.kazan-g.sakura.ne.jp/J/koukai/02/hirabayashi.html
(5) 火山灰
噴火によって噴出した直径2mm以下の物体を火山灰といいます。空気中で冷え固まったマグマが細かく砕かれたもので、「灰」とありますが実際にはガラス片や鉱物結晶片になり、人体に悪影響を及ぼします。目に入ると角膜剥離や結膜炎を引き起こし、呼吸で吸い込むことにより鼻や喉の炎症を起こしたり、ぜんそくや気管支炎を引き起こす可能性もあります。
火山灰は空中高く舞い上がり、上空の風に乗って広範囲に運ばれて行きます。大量の降灰は農作物に被害を与えるだけではなく、社会インフラに大きな打撃を与えます。降り積もった火山灰の厚さが僅か1mmでも、車や鉄道が運行中止になる可能性があります。また火山灰は精密機器に入り込み故障を引き起こすと考えられ、様々な情報システムにより制御されている現代社会は大混乱を招き、その復旧までには膨大な時間がかかってしまいます。
雨が降ると火山灰はセメントのように固まり、かつ重量が増すため、10cmほどの降灰でも家屋の崩壊を招いてしまいます。濡れた火山灰が付着した送電線は漏電を起こし、停電や火災の発生につながりかねません。
◆Bousai Tech 火山灰の災害対応を行う上で注意するべきこと
https://bousai-tech.com/saigai/ash/
◆気象庁 降灰予報の説明
http://www.data.jma.go.jp/svd/vois/data/tokyo/STOCK/kaisetsu/qvaf/qvaf_guide.html
3.火山噴火に遭遇したら
火山を登山している時や、周辺の観光地にいた時に突然噴火が起きた場合、噴火直後に何よりも大切なのは、噴石など噴出する固形物から身を守ることです。そのためには、すみやかに山小屋や避難小屋など安全な場所に逃げるしかありません。観光客が逃げ込むためのシェルターが設置されている火山もあります。噴火直後には噴石や火山弾が飛んでくることを知っておき、堅固な建物に避難します。間に合わない時は、大きな岩陰に身を隠します。逃げる時には、リュックサックやカバンなどで、ひとまず頭や背中を保護することが重要です。
噴石の放出は、しばしば断続的に起きます。噴石が少なくなったと判断してシェルターなどから出て行動すると、再び放出を始めた噴石に襲われることもあるので、注意することが大切です。
火山灰に対しては、火山灰を吸わないようにタオルやハンカチで口元を覆います。火山灰が目に入ったら、こすらずに持参した水で流します。とにかく呼吸器や目を守ります。
避難の際には、噴煙を浴びないように出来るだけ風上方向へ避難します。また火砕流などが流れる谷筋や窪地は避けて避難します。
火山噴火は地震とは異なり、低周波地震や山体膨張を観測することで、事前に噴火を予測することが比較的可能です。2000年の北海道有珠山の噴火の際には、この山の噴火のクセを熟知した北大有珠山火山観測所の所長により事前に勧告がなされ、大規模な噴火にも関わらず一人の犠牲者も出すことはありませんでした。
しかし個々の火山によって、そのクセは異なります。御嶽山の噴火では、低周波地震が観測された直後に噴火が始まりました。桜島のように観測者が常時いる火山は別として、多くの火山では噴火に至りそうな現象が現われても、どれだけの期間を経て噴火するのか、または収まるのか把握できていません。
登山や温泉地などに観光へ行く際は、現地のお天気情報と共に必ず火山の状況もチェックして、楽しい時間を過ごしていただければと思います。